たまごや日記

日記だから文章はてきとう。過去の私と今の私の間には別人になるようなエピソードが挟まっているかもしれません。

ソルちゃんのいさみあし(3)

(続き。1から順にお読みください。)


次の日朝一で受診。自分が思ったより冷静でちょっと嫌になりました。
子宮に残ったものが出てしまっていれば手術をしなくて良いとの事でしたが、やはり少し残っているので手術をすることになりました。
私としてはこの方が嬉しかったです。
だって、これで何も無く終わりだと、あまりにもあっけなさすぎるもの。
たったあれだけの処置で終わり?そんなの嫌だよ、と思っていたのです。
手術なんてしないほうが体は楽だしお金もかからない。
でも、頭と体と心は別なんです。


手術室で準備中の看護婦さんと、ルナちゃんの話や生理食塩水の話なんかをしていました。
特に後者は、こんなときにこんな話する人、いませんよねー、なんて言いながら。
(ちなみに大学のときの実験の話です。)
でも、そこで赤ちゃんがいなくなってしまったおなかのことを考えると泣きそうになって来ました。
ああ、そうか。私って、関係ないことや理屈っぽいことばかり考えて、気を逸らしていたんだ。こんなこと考えるのも、そのせいかな。その時そう気づきました。


手術自体はあまり良く覚えていません。
麻酔がすぐに効いて目を瞑ったらしく、まるでピンクかオレンジのカーテンの向こうから人が覗き込んだり話しかけたりするような気配が伝わってきた感じでした。
ある程度意識が戻ったのは2時間後、病室のベッドの上でした。
しばらく休んで更に2時間後、一度帰宅しようとしたのですが、準備中に気分が悪くなってもう一度休みました。
更に2時間休み、相棒に連絡をし、帰宅することになりました。
このとき、看護婦さん(助産婦さんかな?)に「つらいだろうから(待合室じゃなくて)ここでしばらく待っててもいいよ。」と言われました。
これは体のことかな?気持ちのことかな?ふとそう思いました。
(妊婦さんが検診に来ているから。私は完全に妊婦じゃなくなったばかりだし…相棒は体のことだと思うと言ってましたが。)


その日はさすがに体がしんどくてずっと横になっていました。
次の日もしんどそうだし、ルナちゃんの世話もあるので相棒に半休を取ってもらいました。
確かにしんどくはあったのですが、もうそれなりに動けてはいました。
出血も治まってきていたし…でも、それが悲しくもありました。
だって、ソルちゃんがいなくなったから楽になったのだから。


しかし、体が回復してくるとどうしても来なかったソルちゃんのことを考えてしまうのです。
 男の子だったのかな?女の子だったのかな?
ルナちゃんがご機嫌でかわいいしぐさをすると、ここにソルちゃんも加わったはずなのに、と思ってしまうんです。
 ルナちゃんはお姉ちゃんの顔するようになるのかな?ソルちゃんはあまえてるのかな?
ふと頭をよぎる、来なかったソルちゃんのことを相棒に話そうとするのですが、どうしても口に出せません。
言葉を発すると涙があふれそうになって、そうなると止まらなくなりそうで、辛くて口に出せないのです。
でも、相棒とは、とても、とても、話したいのです。


がんばって言葉に出しました。
話すと、泣かずにはいられない、と言いながら。
こんなに自分がショックを受けていたなんて気づかないくらいひっくひっくと泣きました。
私がソルちゃんについて思っていたこと。
なんだかんだ言いながら、もうすっかりソルちゃんを迎える気になっていたことに気づいたこと。
…その時思いつくいろいろなことを、少しずつ、泣きながら、落ち着きながら、相棒に話しました。
本当に、自分でも驚くほど悲しんでいることに気づいてしまいました。


泣いたせいか、次の日はずっと軽い頭痛がしていました。
相棒に連絡していつもより3時間くらいサービス残業を早く切り上げてもらいました。
(こんなときにもサービス残業させる日本社会の構図が本当に憎らしい。本気で出生率減らしたくなかったらこういうところをどうにかしろよ。)
でもね、相棒が、しんどいしんどいって言うんだよね。
それは解るんだけどさぁ、なんかもう、私やソルちゃんのことは二の次になったんだなぁと告げられたも同然で却って辛かったです。
確かに、ソルちゃんが来たという意識も、来なかったという意識も、話をするとずいぶん違っていたのですが、こんなにさっさと…そう思うとなんだか悲しくて。
そんな相棒を見たり、やっぱりソルちゃんのことを思ったりして、思い出したように一人で泣いては治まりを何度も繰り返していました。


そして次の日。
本当は、泣いて泣いて、悲しみの淵に沈むように眠り、ずっと眠り続けて、沈みきった後少しずつ浮上して、浮上しきった頃自然に目を覚まし、ぼーっとしながら、時には少し涙をこぼしながら、お茶を飲んで、少しずつ、おなかがすいたりするのをきっかけに日常に戻っていけたらいいのかもしれません。
でも、ルナちゃんのお世話があると、良くも悪くも悲しみに浸っていられません。
そのせいか、とても無気力で投げやりな気分でした。
したくも無いのに部屋を黙々と片付けたり、ルナちゃんのお散歩もかねて、いきたくも無いのに無理やり外出したり、見たくも無いテレビを見たり…
やっぱり帰ってきた相棒はしんどいの連発。
ご飯だけはいつもしんどくても作ってくれるから、ありがたいんだけど、でもそれよりも……どうしてもそう思ってしまいます。
余計に無気力になってしまいました。


明日はどうなるんだろう?明後日は?明々後日は?
次の検診はどうなんだろう?話を聞いた後私はどうなるんだろう?